「食生活と身体の退化」の結びから
一部のみ要約して
我々のもつ対立する二つの大問題は解決されるだろうか
環境か遺伝か!?
いわゆる不良少年や不良少女をつくる原因は何なのか。
またなぜそういう子供たちができるのか。
これはあらゆる良識ある市民やすべての親が関心をもつ問題である。
青少年の非行と増加しつつある知的障害児の問題は両親と教師に責任があると言われていることから、両者にとって大きな悩みとなっているのであるが、その発生要因としては今のところ2点が挙がっているにすぎない。
出生時と幼児期に関連して考えられてきたのは、遺伝と環境の2つの要因である遺伝そのものが左程大きな要因とは考えにくく、おそらく両親の考え方によって影響されていると思われていた時代なものだから、子供の行動に対しては両親に大きな責任が課せられた。カリフォルニア州の法律では、犯罪を犯した未成年の少年少女が出頭する際には、必ず両親が裁判所に呼ばれ、その事情を説明しなければならないという規定があった。
未成年の犯罪増加は、両親の多くが軍事産業に従事しているからだと言われているが、未成年の犯罪者の両親のうち4%しか軍事産業には従事していないのである。
遺伝は神の意志に基づくものだから、遺伝のプロセスは人間の知識を超越するものであって、クリスチャンがとやかく論ずるのはふさわしいことではない。
この法律の精神はこういう信念によって支えられているのである。
このような状況にあって、非行少年と知的障害児の数は、合衆国全土にわたって10年刻みで増加していっている。
ただ、この増加も地域によって異なり、それがたまたま問題解決への糸口にもなったりするのである。
他方、ある種の身体的な異常は出身地にかかわりなく犯罪者に多く見られる傾向が見られる。
まず一つ目の要因、環境
犯罪に関係する遺伝と環境という2つの要因は、我々の考え及ばぬ領域になってきた。
出生地とはかかわりなく、ある類似性が存在するという事実は、私を、世界の様々な地域に住む先住民を調査し、私たちの想定外の知恵を、そういった人たちがもっているかどうか研究する方向に導いていった。
その結果、久しく埋葬されたままになっていた多くの人骨が、実にすばらしい骨格をもっている以上、古代人が優秀な体格をしていたことは明らかになった。かくして、その理由を探るために私は古代文明の子孫たちを訪ねることとなり、幸いにも予想通りの成果を得ることができたのである。
すなわち、身体的にみて完璧だといえる先住民の人々は、現代人のもっとも優秀な身体と瓜二つの身体をしており、また彼らの欠陥も現代人の欠陥と重なり合うことが判明したのである。
ただ、欠陥をもった先住民の集団というのは、近代的通商との接触によって近代文明に係わりをもち、生活習慣を変えられてしまった人々なのである。
我々は近代の無機質の減少した、ビタミンの含まれていない食品世界の中に彼らを巻き込んでしまったわけである。
二つ目の要因、遺伝について遺伝は複雑な特質をもっており、それ自体は純粋に物質的な現象である。
それは蛋白質、ミネラル、ビタミンなどを単位とした遺伝子と呼ばれる物質から構成されており、遺伝が次の世代に受け継がれていくには、この遺伝子が両親の特別な生殖細胞によって再構成される必要がある。
これが完全に再構成される限りにおいて、身体的および生理学的な遺伝特性が完全に受け継がれていき、人格とか性格という形で遺伝が継承される。
本当に遺伝なのか?
近代化された先住民からは、現代の心身障害者にみられる異常な性格や、それに随伴する身体的欠陥をもった非行少年が生み出される。
先住民たちのこうした事象は遺伝によって起ったものではなく、遺伝が妨害されたことによって生じたものである。
彼らの障害は受胎のときに作り出されたものであり、その障害は決して治すことはできないけれど、しかし両親の適切な食生活と適切な教育とがあったなら、事前に防止することが出来たはずである。大自然は、何百万年もの問、何ら異常のない鳥,蝶,動物を創造してきた。
野生の動物にできるのになぜ私たち人間に出来ないのであろうか。もしかすると、野牛の動物は本能的に正しい食物を選び出し、自然の食物をいじくって加工したりしないからだろうか。
一部の鳥や動物は生まれるやいなや住居を作り、食物を探すことができる点を考えると、生まれること自体が教育であり、本能なのである。
野生の動物は、生存という本能の故に、あるいは利益を求める欲求が備わっていないが故に、保護されているのである。
これらの先住民に関する調査を記録する際に、私は頭の形や身体構造に多くの変化がみられる人間と動物で、障害が類似していることを示す何千枚もの写真を撮った。
また、障害のある両親に十分な栄養を与えると,殆どの子供たちにはこうした罹患が見られなかった。
したがって障害は遺伝によるものではないこともわかった。
本書「食生活と身体の退化」が再販、増補された趣旨もここにある。
先にも述べたように今年(1945年)の5月、ロックフェラ一財団が、メーン州、バーハーバーのジャクソン・メモリアル研究所が行っている、遺伝の正常・異常プロセスにおける遺伝子の変容過程の研究に対し、$282.000の助成金を出したことは非常に意義深い。リトル博士は、助成金授与の知らせを聞いて、次のように述べている。
(リトル博士は、次の世代に両親の特徴を伝達していくという重大な使命をもった、この複雑な遺伝子の構造に関連する諸問題の世界の指導的な研究者の一人である。)遺伝と環境は椙互に作用し、両者のいずれが欠けても問題が起きる。
例えば遺伝子(遺伝の基本単位)として知られている小さく凝集した化学組織の中枢が、食物が作る細胞と、その過程で指揮権を発現するための成長とがなければ、体型あるいは特徴を伝達することは出来ないのである。アーネストA.フートン博士は、本書に序を寄せ、次のようにしめくくっている。
したがって私は、プライス博士の手で書かれたこの本は、一般に言われている『大変有意義な本』の一冊であると思っている。
ただ、普通の良書と違うとすれば、それはこの本がまさにその名に値するものであるという点なのである。
実を言えば、彼が探求した事柄は、私自身もいずれ是非究明したいと思っていた事なのである。
この意味からからも私は、心からの(幾分妬ましさの混じった)敬意を表するものである。
多数の先住民や動物の写真を見れば分かるように、同一家族の中でも年下の子供に多く現われる身体的退化という問題は、両親の中の何かがすっかり失なわれていったということを示唆している。
もし,第一子誕生から10歳以上離れたりしていると、鼻孔が狭かったり、歯列が不正であったり、腰が小さいといった状態が待ち受けており、退化の影響はさらに人格にまで及ぶようだ。
大自然は,自ら利用できるあらゆるものを使って最善を尽くし人間を削造する。今日生まれてくる赤ん坊の25%は、どこかが不完全なため生きて生まれてこないし、また新生児の37%は生後15年間のうちに死亡するかして、社会の悩みの種となるのである。
今何より重要なのは、障害を予防する手段であり、まず筆頭は、これから親となっていく者を対象に教育をしていかねばならないという事である。実は、この方法は、私が調査した多くの先住民によって既に実施されているものである。
そこで性の問題を表立って論じるのではなく,現在順調に生育しているような、小学生、中学生および高校生に生物学の話をするだけでよい。また適切な食事計画は、欠陥のある食品のせいで本人自身にもその子孫にももたらされる障害の本質というものを、詳細に示してくれるだろう。
そして、自分と子孫の両方にとってどういう食物が必要かつ望ましいのかを教えてくれる。
先住民が優れた健康を保持している地域では、例外なく適切な食物がすぐ手に入る。とはいえ、ある種の食料が遠路はるばる運ばれてくることも多くみられる。
まさに適切な教育を施すことによって、我々は、亡びゆく文明ではなく、生ける文明を築くことができるのみならず、多くの人命と金銭を無駄にしなくても済むのである。
いったい誰が私の母だったのかそれは私を宿し生んでくれたあの心優しい人なのであろうか。
私に食物と住まいを教えてくれた母なる大地であろうか。
幼いぐらつく足取りの私に、人生の教訓を授けてくれた教会、父が大変熱心に通っていたあの教会なのだろうか。
それとも、これらすべての背後にあってそのすべてを創造する力が存在しているのだろうか。古代文明の子孫たちを訪れるたびに私が感じるのは、皮膚や体型が違っても、彼らはみな一つの典型にあてはまり、体つきや行動の変化にも同じような関連をみせており、また住民たちはその地方に住む動物と大なり小なり同じような変化を示していることである。
彼らは皆、様々な生命体を超越して存在する、大白然の終わりのない目論見の中に組み込まれている。彼らもこの地球が歩んで来たあらゆる地質時代のなかに含まれており、地球の構造そのものに関連しているに違いない。
生きとし生けるものは、変わりゆく物質的環境に適応してきた。
そして現存する文明を真剣に研究しようとする者には、それぞれの未開の種族が、自分たちを支配するある種の意志に対して進んで共鳴していることが分かるのである。熱心なアメリカ先住民の研究者アーネスト・トンプソン・シートン氏は,アメリカ先住民たちの生きる上での動機を次のように述べている。
精神的なものが基本になっており、
ここでの成功の尺度は「私は同じ種族の人間にどれほど役立ち、尽くす事が出来たか」にある。
さらに、解剖学・人類学者の M.F.アシュリー・モンターギュ博士は、オーストラリア先住民とイヌイットの生きる動機を論じる中で、次のように述べている。我々は確実に彼らより劣っている。
我々は高貴な理想や高尚な考えを並べ立てているが、オーストラリアの先住民やイヌイットは、こうしたことを本に書くこともないし講演する事もないけれど、実践しているのである。
各人が集団の幸福を実現していくなかに自らの幸福を見いだし、その集団の幸福を僅かでも破壊するものは異常者とされる彼らの社会にこそ、真の民主主義が存在している。青少年の非行や精神障害は、遺伝や環境だけによって起こるのではない。
それらは身体、精神、道徳と言った面に及んでいるが、適切な教育と両親の適切な栄養摂取によって予防できるし、また予防すべきである。
これには原形質の正常な形成が鍵となる。人類学者ニーダム氏は、原形質が生物世界の4つの要素のうち第一に重要な要素と強調し、次のように述べている。
総ての生命体に共通して存在するのが原形質であり、それは生命の物質的基礎であり、今日知られている生命を与える物質としては唯一のものである。原形質は、半流動体物質で、透明で、創造らしきものは無いに等しく、見たところ不活性であるが、無生物と生物を区別する特殊な働き、すなわち成長と生殖を可能ならしめる働きをもった物質である。
生命を与える物質はすべて原形質であり、推測するに、世界中の他のものには見られないその人間だけの特徴というものを実に見事に各人に賦与していくと考えられる。
(中略)
原形質は我々の身体を造り、身体や精神に作用を及ぼす細胞の背後にあって、生命現象自体の大きな神秘、個人の自己発達の道筋を決め、細胞を通して子孫に血統を伝えていくという未解明の制御過程を推進する力を作り出している。言葉足らずの要約になってしまいました。原本をお読みになることをお勧めします。